2009年6月21日日曜日

【家庭】:出産のこと ※長文です

奥さんの出産時のレポがなかなか評判いいのだが・・・
せっかくレポ書いたのに奥さんのblogが過疎っており下手すりゃ記事消えてもおかしくないのでこっちにコピペすることにしましたw

というわけでちょっと長いですが実体験レポをどぞー

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だいぶ間が開きました。

最後に更新したのは産休入る頃かあ。

さまざまな方からコメントいただいたのに、ろくにお返事もできず、すみませんでした。

時の経つのは早いものです。

おかげさまで無事出産も終えまして、子供も二ヶ月になりました。

そんなわけで、ちょっと出産にまつわることなんか書こうと思います。
強烈な体験だったにもかかわらず、記憶が日々薄れていくのがわかるので、
自分にとっての記録のためにも。

生々しいハナシが苦手な方はご注意を。

初産は遅れる、とは色んな人から言われていたのですが、
ご多分に漏れず私も予定日過ぎても一向に生まれる気配がなく、
入院して促進剤を使って陣痛起こしましょうと言われ、具体的な入院の日取りも決まっておりました。

ネットで
「陣痛をつけるにはオロナミンCと焼肉がいい」と評判なのを見つけ、
毎晩オロナミンを飲み、焼肉も食べに行き、してても全然効果なし。

いつかは産まれるのは明らかだし、焦る必要はないんだけど、
「いつ産まれるかわからない」状態ってのは結構プレッシャーで、
日々ビクビクしながら暮らしてました。

外に出ている間にもし陣痛来ちゃったら...と思うと遠出もできないし、
おなかは限界まで大きくなっているので、とにかく動くのもしんどいしね。

で、入院の日々が目前に迫っていたある朝、
トイレに入ったら少量の出血。

おしるしがありました。

おしるしというのは、お産が始まる合図のようなもので、少量の出血が見られることです。
これがあるともうすぐ陣痛が始まるよという合図。
陣痛が始まると今度は破水があり、出産というのが教科書通りの流れ。
でもいきなり陣痛から始まる人も、破水から始まる人もいるので、参考程度。

で、この時期の出血はおしるしに違いないという知識はあるものの、
なにせ初めての体験なので半信半疑。
しかも出血があるとは本に書いてあるけれど、トイレに行くたびにあるものだとは、
ナプキンつけなきゃならないようなものだとはどこにも書かれてなかったから戸惑う。

そんなわけでその日の夜、寝支度も整えてそろそろ布団に入ろうかな~という頃、
なんかお腹が痛い。

ちょうどお腹を下したときのような痛み。

あれ、これってなに...? 
下痢のときの痛みとおんなじなんだけど、普通に我慢できる痛さだし、これなんだろう。
状況的に陣痛でもおかしくないんだけど、
なにせ今まで陣痛なんて体験したことないので、陣痛の痛みというものがわからない。

ひょっとして緊張してお腹こわした? とも思ったけど、
一応痛くなる間隔を計ってみる。
陣痛なら規則正しい間隔で痛みがやってくるはずだし、
それが10分間隔になったら病院にいく目安だし......と、
お腹が痛いかなあと思う時間を計ってメモしていくと、なんと10分前後という順調な間隔。

うわ、これが陣痛なのか!! と途端に焦る。
ついに来た!!

夜中3時の話です。

冷静に冷静にと自分に言い聞かせつつ、準備してた入院用品のバッグを持ち、
運送屋さんを起こしてタクシーで病院に駆けつけました。

タクシーの中でも陣痛の間隔を計ってメモにつけてると、
徐々に間隔が短くなっている。

病院に到着するとすぐお腹の張り具合を調べるモニターをつけられ、
その日から入院することに。

モニターをつけてる間にふと見ると、空は朝焼けに染まっていました。
家を出るときは真っ暗だったのにねえ。
いよいよこれから命を生み出す作業をするんだなと覚悟を固めたときに見た空は、
新しい一日の始まりを告げていて、気持ちの後押しをしてくれているようで勇気づけられました。

運送屋さんは傍らのソファーで爆睡。

モニターからは規則正しい音で胎児の心音が聞こえてきます。
赤ちゃんは心拍数が早いので、聞こえる音もドクンドクンではなく、
ドッドッドという馬が駆けるような音なんですよね。
で、お腹が張るとその音も早まります。
シンクロしているのです。

初産だし、産まれるのは明日の夕方くらいでしょうと言われ、
ひとまず病室へ。

陣痛も10分間隔とはいえ、まだ余裕で耐えられるレベル。

陣痛というととにかく痛いんだと思っていたけど、
なんだこれなら楽勝じゃん、平気平気、なんてナメてかかってました。

すいません。

甘 か っ た

こんなのは序盤戦の序盤戦、序の口中の序の口でした。

というわけで入院です。

人生初の入院です。
ちゅり星人は体が弱いわりに入院したことは今までなかったんですよね。
(ちなみに骨折したこともない)
結構憧れてた入院。
不謹慎ながらわくわくです。


しかもこの病院は、ちゅり星人が生まれたところでもあるのです。


病院の中に聖堂もあればシスターもいるキリスト教系の病院なのですが、
近辺ではとにかくお産で評判のいいところで、
自分が産むときもここにしようと前から心に決めていました。

しかもここ、おやつがおいしいのよ。

手作りのプリンやゼリーが出るほか、クッキーやジュースなど色々選べて豊富なのです。
祖母がここに入院してたとき、お見舞いに来るたびにおやつをもらって食べていたので、
味をしめているのです。

入院の間はずっとあれが食べられるのか~などと思っていたら、昼過ぎから陣痛が変化してきた。



痛い......。



まだ我慢はできるレベルだけど、無視できない強さに痛みが変わってきたのです。
もうお腹をこわしたときの痛みではありません。
痛みの質そのものが変化しました。

なにに似た痛みなのか......生理痛でもないし、鈍くも鋭くもないし、外傷の痛みともまた違うし。
お腹の中身がしぼられるような感じというのが一番近いかな。
定期的にギューーーと痛くなるんですよね。
うまく表現できませんが、明らかに今までの人生で体験したことのない種類の痛みでした。

これ明日の夕方頃までずっと続くの?
キツいなあ......。

ちょっと自分の中の雲行きが怪しくなってきたそのとき、助産師さん登場。

「星人さん、スクワットしましょう!」

スクワット!

なんでも、スクワットするとお腹の赤ちゃんが下りてきて、お産を進めるのに効果的なんだとか。

......とはいっても、

「すんごくお腹痛いときにスクワット」

この困難さは男性にも理解してもらえるのでは。

さらに「今のうちに、痛いけれど頑張って病院の中歩いてくださいね」とも言われる。

陣痛があるだけではお産は進まず、子宮口が開いてこないと赤ちゃんは出てこないので、
それを促すために歩くのとかスクワットは効果的なんだそうな。

言われるがままにスクワットもし、病院内も歩いてみると、
効果が出てきたのか痛みはさらに強くなり、夕方ごろには痛みで食欲もなくなるほどに。

「食べないと体力なくなっちゃうから全部食べてくださいね」と言われるも、
痛くて痛くて少ししか食べられない。

会社帰りの運送屋さんがウィダーインを買ってきてくれたけれど、
それを飲む気にもなれず消灯時間になりました。

その頃には痛みのレベルもさらに上がり、
いったん痛みの波が来ると、
それが過ぎるまでじっと耐えてからじゃないと動けないほどになりました。

廊下を歩いているときもトイレに入っているときも、痛くなってきたら動きを止めてひたすら息を吐いて痛みを逃がす。

陣痛とはいっても常に痛い状態が続くわけではなく、
10分間隔なら10分間隔で、5分間隔なら5分間隔で強い痛みの波が襲ってくるのです。
だから痛くない隙を見計らってそろそろと動くのですが、
もうすでに陣痛の間隔も短くなっているので、
痛みの合間にトイレに入っても、トイレの中で次の痛みが襲ってくる状態。

入院した直後は、ほかの妊婦さんがやたら前かがみでそろそろ歩いているのを不思議がっていたものですが、その理由が今となってはよくわかる。

お腹痛いときって、背筋伸ばして歩けない。
歩けないけど歩かなければいけなくて、結果前かがみでそろそろ歩きになってしまう。

もともと妊婦はトイレが近い上に、お産が近づくとさらに自然に排便を済まそうとする体の働きもあるらしくて、
トイレに行く回数も頻回なんですよね。


──しかし、お腹痛い。


明日の夕方までまだ時計が一回転以上あることが信じられないんですけど......。

同室の妊婦さんたちは立会い出産される方が多いみたいで、
ご主人の励ます声なんかがカーテン越しにボソボソ聞こえてきて、
お腹の痛みを一人で耐えてる身としては心細くて、
やっぱり立会い出産にすればよかったかなあと若干後悔。

私、絶対立ち会い出産はしたくないと思ってたんですよね。
出産なんて女の私が見てもショッキングなものだし、壮絶だし(テレビの出産シーンなんかを見た感じでは)
トラウマになるだろうという気がしてたのです。

普段の姿とはかけ離れたすごい形相になるし、すごい声上げるし、血は出るし。

パートナーに自分の苦しんでる姿を見せたくないという気持ちがすごくあって。
あとやっぱ出産は「女の仕事」みたいな感覚があり、全部終わってから
「全然平気だったよ~」なんてけろっと言ってやりたいなあと変にカッコつけてるところもあったのですが、

さすがにこのときは心細く思いました。

人の体は不思議なもので、
どの体勢が一番楽に痛みを耐えられるか、無意識のうちにわかるんですねえ。
ちゅり星人の場合、うつ伏せ気味で枕を抱えるような格好が一番楽だったので、
ベッドの中では常にその体勢で耐えてました。

しかし、痛みのせいでものすごい汗かく。
それも冷や汗と脂汗が混じったような、ベタベタのいや~な汗です。
一応体を拭くさらさらシートは持ってきてたので、それで拭いてはいるんだけどあんまり効果なし。
入院着もじっとり、べったり。

温めると陣痛が少し楽になるし、今のうちにお風呂に入ったら?と助産師さんに勧められたので、
夜中だったけど頑張って入浴することに。

正直もう動くのもかなり辛くなっていて、
お風呂に入る工程を思うだけでムリ! って感じだったんですが、
「温めると陣痛が少し楽になる」
この言葉にすがってみました。

が、しかし。

人生でここまで入浴が困難に感じた日はありませんでした。

服を脱ぐのも頭を洗うのも体を洗うのも、陣痛まっただなかには大変困難。
立ちっぱなしでいるのが不可能なので、椅子に座ってうずくまって休み休み、
痛みをこらえては少し洗い、また痛みが来ては中断して......の繰り返し。
おまけにお腹が痛いとき裸になるのってすごく不安に感じるんですよね。
たとえ服一枚でも、守られるものが何もないととても不安になるのです。

さらには、近くの分娩室から、
まさに今出産している人の想像を絶する悲鳴がガンガンリアルタイムで聞こえてくるのですよ。

出産時、絶対無様な声は出すまい、きっと我慢できるはず、なんて心に決めてたちゅり星人、
肝が縮み上がりました。

え、まさか私もいざとなったらあんな声出しちゃうの?((((;゜Д゜)))

そう恐ろしくなるほど、大人の女の人が上げてる声だとはとても思えない苦悶の響き。

あと数時間後にはいやでも私も分娩台の上。
もう引き返すことのできない、降りられないエスカレーターに乗ってしまっているんだということを強く意識。
正直ビビりました。
うわ、これはちょっと逃げ出したい。そんな気持ちになりました。

そろそろと病室に戻り、時計を見ると深夜。

そういや私一睡もしてないじゃないか。

最後に寝たのはおとといの晩。それからずっと起き続けている。

陣痛の合間に少しでも眠って体を休めるように助産師さんに言われるも、
そんな器用なマネできないと思ってましたが、


もう、さすがに、限界......。


あまりにも眠たくなって、
いつの間にか陣痛と陣痛の合間のひと時(といっても数分ですが)に
うとうとするように。

うとうと......痛くて眠りから引き戻される......またうとうと......を何回繰り返したろ。

それまで何とか耐えられてた陣痛が、声をこらえきれないほどに強くなりました。

痛みの波が来るたびにうめくしかなくなる。
声を出すのが「我慢できない」のではなく、「出さずにはいられなく」なるんです。

声を出して発散させないと、痛みを内で完結させられないのかなあ、
とにかくうめき声が出てしまうんです。
これはびっくりした。

痛くて声を上げるなんてかっこ悪い、なんて思ってた昔日の自分よさらばです。

もう陣痛の合間に眠るなんて器用なマネはできなくなり、
しばらく痛みと戦っていましたが、ついに耐えられないと判断して、ナースコールを押しました。

そして駆けつけてきた助産師さんにベッドごと陣痛室へと運ばれるのでした。



いよいよ陣痛室へ。


が、


お腹の張りを調べるモニターをつけられ、内診されて子宮口の開き具合を調べられるも、
まだ張りも弱いし、子宮口も開いていないので当分かかりそうとの見立て。

もっともっと強い陣痛が定期的に来るようじゃないと、
赤ちゃんを押し出す力にはならないと言われてショックを受ける。

こんなに痛いのにまだ弱い!? これからどんだけすごいの来るのさ!?

でも恐ろしいことに、痛みは容赦なくレベルを上げてくるんですね。

助産師さんが持ってきてくれた大きなビーズクッションに突っ伏して、ひたすら痛みに耐えていると、
そのうちうめくだけじゃ足りなくなって
「痛い~~~、痛い~~~」と訴えるようになりました。

これも意識してのものではなく、ごく自然に言葉が出てきてのもの。

同室の妊婦さんたちも口々に声を上げていて、
なんかもう、さながら野戦病院。

阿鼻叫喚、戦々恐々。

そんな中、唯一の希望の光が助産師さん。

ほとんどつきっきりのように側にいてくれて、
ウィダーインを飲ませてくれたり、腰をさすってくれたり、
励ましてくれたり。

不安な気持ちを支えてくれ、さらに肉体的なケアも万全。

陣痛の場では(「陣」とはよく言ったものだと思う。ほんとにこれは戦です)、
助産師さんは絶対の存在です。

まるで母親のようでした。

助産師さんが離れると、お母さんとはぐれた子供のように不安で心細い気分になります。

これから自分が母親になろうというのに。

そして戻ってきてくれると、とても安らいだ気分になって安心する。

これはたとえ立会い出産だとしても、夫では与えられない精神的な支えだと思う。

助産師さんはすごい。

病室で一人で耐えていた頃より、ずっとずっと痛みは強いけれど、
助産師さんが側にいる今の状態のほうが楽。

楽だけど痛みはやはりハンパ無いので、弱音が口をつく。

「帝王切開にしてください」
とか。

もう一刻も早く陣痛から開放されたくてされたくて。

だからといって帝王切開にしてもらえるわけもなく、

「帝王切開も痛いよ」とたしなめられて終わりですが。

そうこうしているうちに、また陣痛と陣痛の合間に少し眠ることができるようになってきたので、
助産師さんに腰をさすってもらいながら短いスパンでうとうとを繰り返して朝を迎えました。

夜通し陣痛に耐えている間に、子宮口も開いてきたらしく、
当初夕方といわれていた出産も少し早まりそうだとのこと。

朝食が運ばれてくるも、食欲まったく無し。

夜中にウィダーインと水分を少しとった程度なので、ジュースだけでも飲まないとダメと言われ、
ほとんど無理やりジュースを飲み、キャンディを舐めて糖分補給。

かなり自分の体が消耗しているのがわかりました。

ろくな睡眠が取れていないので、目も充血していてとても痛い。

今鏡を見たら相当酷い顔してるんだろうなあ。

陣痛室も朝の光で満たされて、病院全体が目覚めた活気が廊下から伝わってくるけれど、
よれよれのちゅり星人は昨夜からの疲れを引きずったまま。

もう陣痛はこれ以上の責め苦は無理レベルに達していて、
引いたと思ったら腰が爆発するような痛みがまたすぐ襲ってくるという状態。

自覚は無いものの、助産師さんが破水を確認したらしく、
いよいよいきんで生み出すところに来たことを教えてもらう。

いきむ。

出産の時はいきむもんなんだというのは知ってるものの、
どこにどうやって力を入れればいいのかよくわからず、今まで漠然としていたのですが、

やはり人間の体は不思議なもので、
お産が近づいてくると自然に下腹部に力が入りそうになってくるんですね。
力が入りそう、むしろ力を入れたい、そんな感覚が誰に教わらなくても備わってるんですね。
自然の仕組みってすごい。

とはいえそれに任せて漫然といきむのではなく、やはりきちんとコツがあって、
痛みの波がピークに来たときでないと、いきんではいけないらしいのですね。

痛みの波が最大になった時にいきんで赤ちゃんを押し出すという感じ。

逆にそうじゃない時にいきんでも、出てこないだけではなく、
かえって無駄に体力を消耗するだけなのでダメだそうです。

痛みの波が上昇している間はいきみたくなるのを我慢して息を吐いて、
(痛みを逃がすと言います)
痛さがピークになったところですかさず息を止めて、
排便するときとまったく同じ、肛門に力を入れて「いきむ」のが正しいやり方だそうです。

......そう。

赤ちゃんは別のところから出てくるわけですが、
力を入れるところは肛門なんです。

なんつーか......。

なので、夢のない話ですが、分娩時に一緒に便が出てきてしまうこともあるようですよ。

それを防ぐためにお産の前に浣腸を施す病院もあるようですが、
これまたうまくできているもので、
人の体は自然にお産の前に排便をすまそうとする働きがあるそうで、
ちゅり星人の入院している病院では浣腸をせず、自然のままに任せているそうです。
(助産師さんの話では、浣腸をした便より自然のままの便のほうが、
万が一出たとしてもコロンと取り除きやすいとのこと......)

確かに食事をするたびにトイレに行く羽目になってつらかったけど、
これも自然の摂理だったということ。

そしてお尻関係でもうひとつ。

結局一番楽な姿勢だったので、
陣痛時から四つんばいになる感じでビーズクッションに突っ伏して、
そのままの姿勢でいきんでいたのですが、
いきむたびに助産師さんが押してくれるんですよ、

ぐっと、

肛門を。

そして驚くことに、押してもらうと確実に楽になるんです。

最初は痔とか脱肛とかしないようにお尻を保護してくれているのかなとも思ったのですが、
あるいはこれもお産をスムーズに乗り切るための方法なのかも。

このころにはもう余裕もなくなっていたので、聞けなかったけど。

いきむというのは実際やってみるとかなり加減が難しく、
なにより大変だったのが、いきんではいけないところでやって来るいきみたい衝動を我慢すること。

ここぞ! というタイミングで、強い痛みのピーク時にいきまないといけないものの、
それ以外のやや弱い痛みのときにもいきみたくなってしまう、
その衝動を逃がすことがかなり難しい。

ひたすら体の力を抜いて、息を吐いて耐えるんですが、

例えて言うなら、排便時に大きなウンコが出そうなあの瞬間、
体は出したい、ふんばろうと自然に反応しますよね。けれどそこで強制ストップかけられるそんな感じ。

ね、困難でしょ?

出産話なのに肛門周りの話ばかりになってしまってスイマセン。

しかし実際の出産にロマンもへったくれもないのです。

もう必死です。

あなたも私もそうやって生まれてきたのです。

しんどさに
吸引分娩してください......」
と弱音を吐くも、励まされ、とにかく頑張る。

もちろんこの間も絶賛陣痛中です。
もう痛みを耐えるという感じではなく、
とにかくこの痛みを終わらせる(=出産)ために積極的に頑張るという状態です。
受身から攻めの姿勢へ自然に変化するのです。

降りられないエスカレーターなら、もう終着点まで一刻も早くたどり着くしかない、
そんな感じで根性が固まります。

で、まあそうやって何度もいきんで頑張って......してもなかなか出てこない。

そのうちにちゅり星人の体力がなくなってきてしまい、
痛みが来てもいきむことができなくなってきてしまいました。

消耗してしまったわけです。

「もう無理です......。ヘロヘロです......」

クッションに突っ伏したままぐったりしているちゅり星人、
陣痛促進剤が使われることになりました。

へろへろの手で同意書にサインをし、モニターをつけられて、点滴で薬を入れられ、
弱くなった陣痛を人工的に強く引き起こします。

加減をしながら徐々に薬を強くしていくと、
来るんだこれが。
お手本のような強い陣痛。

「い、いきみたい......」

持ち主にはお構いなしで、体のほうが反応して、赤ん坊を押し出そう押し出そうとしだします。

強い陣痛なので、いきむタイミングも取りやすく、
ぐったりうつぶせていたのに、起き上がってもうヤケのように頑張る。

根性値突入です(ブレスオブファイア)。
HPは0になってますが、もう根性値で動いてます。

お腹につけてるモニターからは、元気よく赤ん坊の心音が聞こえてきます。
母体がこんなに消耗しているのに、赤ん坊は力強く脈打って頑張っているんですね。
お産が長引くと、赤ちゃんも弱ってしまうこともあり、そうなると危険なのですが、
ちゅり星人の子供は元気。

助産師さんが励ましてくれます。

「ほら、赤ちゃんも頑張ってるよ。あと少しですよ!」

産まれてくるときは赤ん坊も苦しいらしいのです。
狭い産道を命がけで出てくるわけだから、そりゃ~早く出してあげないとつらい。

だから、いきんでいない時はできるだけ息を吸って、
酸素をいっぱい取り込んであげる必要があるわけです。

まだ肺で呼吸もしていない状態なわけで、赤ん坊の唯一のライフラインはへその緒。
母体がいっぱい酸素を取り込んであげないと、お腹の赤ちゃんも苦しい。というわけ。

こちらとしてもなんとか楽になりたい。
向こうも早く出てきたい。

利害は一致しているわけです。
つまり出産は母親と子供の共同作業。
どちらか一方が頑張って産まれてくるものではなく、二人で力を合わせて産まれてくるものなのですが、
なかなかスムーズにいかない。

「もう出てきて!」

懇願です。

助産師さんが素早く内診して、赤ん坊の位置がだいぶ下がってきていることを教えてくれる。

「もうすぐ頭出るよ! あとちょっと!」

うへえ。

何回繰り返したろう。
なかなかそこからうまく進まなくて、もうヤケを通り越して臨界点突破。

あのね、ドラマの出産シーンとかあるじゃないですか。
女優が分娩台でう~~~んとかそれっぽく唸ってるやつ。

なまっちょろいよあんなの。

甘い甘い。

子供一人産み出す時のマジもんのいきみはあんなもんじゃ~ござんせん。

言語化できません。

うおあああああ とか ふんぬおおおおお とか ぐおおおあああ とか うぬあああああとか、
なんかそんな感じのテイストのもっとすごい声が多重奏になったものが出ます。

頭の血管切れんじゃないかというくらい。

そしてそして。

「頭出てきたよ!」

......わかりました。

骨盤がめきめきめりめりと開いていく感覚!!

出産でなにが一番鮮明な記憶かと言えば、この骨盤が開いていく感覚でした。

硬い大きなもの(頭)が通る時に、無理やり骨盤を押し開いていくあのなんともいえない感覚といったら......!

音が聞こえたもの。

さすがに実際に外に響いたわけではないだろうから、多分脳内でだと思うんだけど、
めきめきめりめりってね。

この衝撃は、例えていうなら、自分の骨が折れる瞬間を体感した時の感じに似ているのではないでしょうか。
あ、今折れた! という認識。
そのとききっと脳内では骨が折れる音を鮮明に聞いていると思うのですよ。
実際に耳に届いているかどうかは別として、最短距離で脳みそに響いているその音を。

この骨盤が開いた感覚と同時に、その開いた部分に何かが挟まっている感覚がしました。

頭が出てきたんですよ。ようやく。

「分娩室行きますよ!」

そしてまたベッドごと、今度は分娩室へと運ばれていくのでした。

いよいよ出産です。



骨盤の開いた感覚は決して気持ちの良いものではありませんでした。

脳内に浮かぶのは、カタパルトが開いてなにかがいよいよ射出されようとしているイメージ。

ライジンオーだったかな、プールが割れて中からロボが出てくるアニメのシーンを見たときの
「なんかわからんがおおごと」
を見ているときのドキドキ感。

普段生活していたらありえないところがありえない開き方をしているんだから、これはもう変形といっていいのでは。

人体の不思議に達観に似た思いも起こります。


そうこうしているうちに分娩室に到着です。

というか、普通こんなになる前に分娩室に入るんじゃないの?

いきむとかは、分娩台の上でやるものなのでは?
頭が出てくるまで陣痛室で頑張るってイメージ無かったんですが??

後で知ったんですが、その日はお産ラッシュだったらしく(1日で6人も産まれたそうな)、
どうやら分娩室も押せ押せの状態だったらしいんですよね。
前の人がつかえてたのかな~と今となっては思います。

ベッドに乗せられたまま分娩台に横付けされ、さて助産師さんが次に言った一言、

「移れます?」

( ゚д゚)ポカーン


自  力  で  ?


ERでよく見る「僕の合図で移すよ! 1、2のさんッ!!」とかってのじゃないの? 自分で移るの?


──まあ頑張って移りましたよ。
いざとなったら人間なんとかやれるものです。

「あ、星人さんなにか音楽かけたいっていうことでしたよね。CD、カバンの中かしら......」

そう、分娩時にアロマを焚いたり、好きな音楽をかけられるということで、事前にちゅり星人もかけたいCDを持ってきてたんですよね。

それがこれ。

ビル・エヴァンスのMoon Beams


Moon Beams

夜寝るときによくかけていた、穏やかで鎮静作用の高いアルバムです。
分娩時にも、これをかければ少しはリラックスできるかな? と思い、チョイスしたのですが
まさかこんなバタバタな状態でとは......。

助産師さんが、カバンの中から取り出したビル・エヴァンスをかけてくれる。
ああ、耳になじんだメロディーが流れ出す。
これでリラックス......リラックス......無理............。

なんかもうあわただしくてどうでもいいわ。音楽に集中できないし。

せっかくのアイテムも台無しです。

色々考えて持ってきても、そんなもの堪能する余裕なんて粉ほどもありませんでした。
それよか分娩台の上で待つ最後の追い込み、そして最後の自分との闘いで頭いっぱいです。

自分との闘い。

それは 会陰との闘い。

会陰......(えいん、と読みます)、部位がどこかはここを見るとわかるかと。

女性なら一度は聞いてビビったことがある
「出産時には会陰切開する」
という恐ろしい話。

男性は初めて聞いたという人も大勢いるのではないでしょうか。

そうなんです。切るんですよ。あんなところを。

お産のとき、そこの皮膚が十分に伸びないと裂けて(!!!)しまうので、
人工的にハサミでじょきんとやるのですよ。
自然裂傷より人工的に切ったほうが傷口がキレイで、縫合した後も治りが早いから、というのがその理由。

とはいっても......
想像しただけでぞおっとしますよね。腕や足の皮膚とはわけが違う、
あんないかにも薄くて弱そうなところ、
想像しただけで腰が引けてしまいます。縮み上がります。男の人だったらキューーーもんです。

出産経験者はよく
「陣痛の痛みが強すぎて、いつ切ったのがわからなかった」とか
「もうとにかく早く出して!ってなるから、いざとなったら平気だよ」とか言いますが、
いやいやアナタ、そうは言ってもコワイコワイ! 痛い痛い!

なので、分娩時の希望を聞かれたときに、
ちゅり星人はなるたけ会陰切開をしたくないと伝えておきました。

会陰切開とはいっても、誰でもかれでも切るというわけではなく、
ゆっくりゆっくりお産を進めて徐々に会陰を伸ばしていければ、
裂けずに上手に産むことも可能だと聞いていたので、その方法に飛びついたわけです。

そう、最後の自分との闘い、
それは 会陰切開せずに、かつ自然裂傷も防いで出産すること。

とはいってもこれが難しいんだった。

その3でも書いたように、いきみたい衝動を逃がすのがとても難しい。
いきみたいからって力任せにいきんでしまえば、当然一気に赤ん坊が出てきてしまうわけで、
そしたらダメージ甚大。
自然に裂けてしまう場合、ひどいと肛門まで損傷が及ぶ場合もあるそうなので、
そんな話を聞いてしまったら、もう頑張るしかないじゃないですか。

難しくても、誘惑に負けてしまったら後でつらいのは自分になる、
そう思ってなんとかゆっくりゆっくり子を生み出そうと心に決めていたのですが、
まあ言うは易し、行なうは難し。

分娩台にあがった時点で助産師さんが言いました。

「もういきまないで大丈夫よ。いきまないようにしてね」

い、いきまないと出てこないのでは......? と疑問に思うも、いきむなというのだから耐える。

──それにしてもこのいきみたい衝動、どうしたらいいのって感じ。
やり場がない。困る。
少しでも腹式呼吸するといきんでしまうので、できるだけお腹から意識を放そうと浅い呼吸を繰り返す。

と、なにやら助産師さん達が足元でなにやら小声で話している。
かすかに聞こえてくるのは、赤ん坊が出てくる向きがちょっと違うとかそういうニュアンス。

ちょっとちょっと、不安になるんですけど!

「星人さん、連絡はご主人にすればいいのかしら?」
「......あの、連絡なら、産まれてからでも、大丈夫、ですよ」(息も絶え絶え)
「うん、でもお産ってなにがあるかわからないからね」

おおおおおおおいい!!!

そうこうするうちに、別の助産師さんから
「はい、いきんで!!」の指示が。

なんだかわけがわからないままに、言われるままにいきむ。
力の限り超いきむ。

「はい、力抜いて~~。肩が出てきた。もういきまないで大丈夫よ」

体の力を抜いたその瞬間、

ずるんちょ。

まさにそんな感じで、なにか温かいぬるぬるしたものが足の間から出てきました。

......

......

.........

......


ふぎゃあああ、ふにゃあああという声が足元から響く。


──泣いてる。


赤ん坊が泣いてる。


............


あれ...


泣き声............     産声...... 


「産まれましたよ!」


「...で、出たぁ~~」


出産後、思わず口をついて出た第一声がこれです。

初めて赤ん坊と対面した母親はよく
「やっと会えたね」とか「生まれてきてくれてありがとう」とか言うらしいですが、
ちゅり星人の場合、
「出た~~」の後に、赤ん坊と対面したときに出てきた言葉は

「きみが中に入っていたのか」でした。


──とうとう産まれました!


ほっとするのもつかの間、今度は分娩台に仰向けになるように言われ、
赤ん坊を産み落としたばかりだというのに、またもや自力で仰向けになる。

十何時間ぶりに仰向けになりました。
我ながらよくもまあずっと四つんばいでい続けられたものだ。

力を使い果たしたのか、手足がガクガクと震えています。
生まれたての小鹿のように震えて、まったく力が入らない。
同時に、ランナーズハイなのか、なんだかやけに陽気な気分に襲われ、
あははあははと笑いがこみ上げてくる。

しかし出産はこれで終わりではないのです。
後産(あとざん)という、赤ん坊が出た後の胎盤とか付属物をもう一度出す作業が残っているのです。

といってもこれは助産師さんがお腹をぎゅーぎゅー押して排出させてくれました。
痛かった。

「子宮を収縮させるために、促進剤をもう少し入れますね」

産んでからもまたあの陣痛に苦しめられるのかとひやっとするものの、
痛みはもう感じず、一安心。

これも後で知ったのですが、
どうやらこのとき弛緩出血という、子宮の収縮が悪いために多量出血を起こす状態になっていたらしく、
通常だと200~250ml、500mlを超すと大量といわれるところを、800mlほど出血していたらしいです。

と、ここまでのお産はすべて助産師さんがしてくれたのですが、
ここでドクター登場。

「会陰のところね、裂けちゃったから縫いますね」

げげーん、裂けてたの......。

正直わかりませんでした。

「じゃ縫うよ」

瞬間 会陰部に走る痛みといったら!!!

痛い、いたい! なにこれ麻酔かかってんの!??

痛いと訴えると先生、
「ここはね、麻酔かかりにくい場所なんだよね」とさらり。

しかしこれは麻酔かかってるとはとても思えない痛み!
というより針がプツップツッと刺さって、糸を引っ張ってまた抜けていく感触まではっっっきりわかるんですけど!!

痛い痛い! 産むより痛い!

「手早くお願いします!」

思わず先生相手にそんなことを言っていました。

縫合が終わったあと、あたたかいタオルで体を拭いてもらって、出生時チェックが終わった我が子と対面。

カンガルーケアといって、裸の赤ん坊を裸の胸に抱いて、初めての授乳。

生まれたてのくせに、胸に近づけるとちゃんとおっぱいを捜して一生懸命に顔を動かす我が子。

人間ってすごい。

ふやふや頼りなく動く子供。
ちゃんと温かく、生きてます。

2008年5月27日、12:12、
3220gの女の子がこの世に誕生しました。

生まれてまず思ったのが、
自分を粗末にするような子には育って欲しくないということ。

そしてこの子の未来が光り輝くものでありますように との、祈りにも似た思い。

どんな人間も生まれてきたときはまだなんの色も付いてない。

どんな人間になっていくかは、すべて育て方次第ということ。
これから責任重大です。



そんなわけで、出産の話は終わりです。

感謝。